【気と明る寂び 辻清明展】 ~ 作品紹介 ~

肌寒くなり、10月も終わると言うのに台風が近づいたりと、季節が少しづつ後ろ倒しになっている気がします。
このくらいの時期になると海が穏やかになり、鎌倉や逗子辺りの海も透明度のある綺麗な色になるのですが、今年はどうでしょうか。

さて、今週の金曜う日からは、東京・世田谷に生まれ、後に東京・多摩に登窯を築いて作陶を続けられた【気と明る寂び 辻清明展】を開催いたします。

清明先生の作品には美しい自然釉に大きな貝の跡目が付くものが印象的。

生前「この地球を忘れないために作る」と仰っていたという清明先生。
また、清明先生の作陶の原点は「遊びをせんとや うまれけむ」
陶器の作品以外にも、ガラスなどの作品も多く手掛けられていました。
先生の作品を拝見すると、大きく心が解放されて、自由な気持ちになってきます。


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会場

大切に集めてきました作品の数々を、一堂に展示致します。
図録掲載外にも、数点、追加作品もいくつかございます。
この機会にご高覧戴けましたら幸いです。



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No.1 信楽窯変茶盌
Tea bowl, Shigaraki Yohen
14.6 / 12.1 / H9.3cm

所載:『独歩 辻清明の宇宙』 清流出版 2012年
「現代の名碗展」 菊池寛実記念 智美術館 2014年
工芸館会館40周年記念特別展「陶匠 辻清明の世界」明る寂びの美 
東京国立近代美術館 2017

正に「辻清明」とも言うべきお茶碗。
あえて正面を下にして焼いたと分かる大きな貝の跡目。
貝を置くことで窯の中の引っ付きを防ぐ役目も果たすが、その貝に着いた塩分によって塩釉に似た効果を持ち、その周囲の土が鮮やかな緋色に変化する。
それにより、自然釉の淡くくすんだ緑の千草鼠色(ちぐさねずいろ)がより美しい色合いに目に映る。
土の中から覗く長石の粒も美しい。
どこか、海底にずっと転がって眠っていたものを地上に引き上げてきたような、神秘的で大らかな雰囲気を感じる。



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No.3 信楽茶盌
Tea bowl, Shigaraki
14.0 / 10.7 / H8.4cm

少し胴が締まった碗型のお茶碗を押して沓形に変形させたお茶碗。
良く焼きしまった深い色合いに、流れる灰釉は、蒸栗色のような淡い黄味から、やや緑がかった暗い黄褐色に変化して流れ景色を作っている。
丁寧に作られた高台の周囲には、深い緑色の釉垂れの玉が溶けて輝く瞳のよう。



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No.54 硝子筒茶盌
Tea bowl, Cylindrial shape, Glass
9.3/H9.7cm

清明先生は世界各国の硝子をコレクションされていましたが、以外と知れていないのがご自身が硝子の仕事を手がけられていたという事。その仕事は、生前、硝子だけで展示会も開催されたほどだったそう。
スッキリとシンプルな作りですが、光を当てると複雑な色合いと模様が浮かび上がり、大変美しいもの。
茂みの中に隠れる熟したアケビの実に見えてきました。




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No.19 唐津水指
Water container, Karatsu
20.2 / 19.2 / H15.5 蓋含む

No.6 信楽土自然釉茶盌
Tea bowl, Natural ash glaze, Shigaraki
13.8/11.0/H8.7cm

池田巖 根来六角茶器

小森松菴 「空則是色」




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No.18 信楽陶缶
Ornamental canister, Shigaraki
16.9 / 15.0 / H14.1cm

作陶の原点は「遊びをせんとや うまれけむ」を、正しく形で表したかのような作品。
清明先生は陶缶と題した作品を多く手掛けられた。
グイッと太幅の箆で引き上げた正面の口縁は、よく見ると、缶の縁がメリッと捲り上がり、缶の切り口の鋭さを思わせる。
本当の缶詰を空ける時の高揚感さえも湧き上がってくるような、動きを感じる。



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No.27 信楽角杯
Sake cup with the shape of dinosaur head, Shigaraki
6.0 / 5.5 / H9.2cm

No.28 信楽自然釉馬上杯
Stem cup, Natural ash glaze, Shigaraki
5.9 / 5.7 / H9.3cm

No.29 信楽山羊角杯
Sake cup with the shape of goat head, Shigaraki
11.1 / 6.4 / H11.5cm

可愛らしい酒器のご紹介。
何だか先生ご自身が愉しんでお作りになられたのが手に取るように分かる作品。
湖から静かに顔を出したようなネッシーのような動物も、お魚の顔も、山羊も皆、ニッコリと笑顔。
きっと手にする人もまた、いい笑顔になるに違いない。



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No.66 信楽徳利
Sake bottle, Shigaraki
No.32 信楽盃
Sake cup, Shigaraki
6.1 / H5.6cm

No.34 信楽馬上杯
Stem cup, Shigaraki
5.6 / H5.6cm
売約済 / sold

丸く大きな徳利の横には、貝の跡目が美しい酒器を合わせて……。


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No.37 唐津盃
Sake cup, Karatsu
6.6 / 6.3 / H6.0cm

信楽の土に狙いを定める前、しばらくは唐津風の作品を集中して手掛けていた清明先生。
その頃は、信楽と益子の土をブレンドし、唐津に似た趣ある作品を作られていた。その後、信楽の土に取り組む一方で、唐津の土も取り寄せ、盃も好んでお作りになられていた。
本作品は大小の鉄釉の斑が飛び、また灰釉が一部青白く変化しているのも大変美しい。
静かに残る轆轤目の動きや、最後引き上げたであろう口縁の土の僅かな土の動きが、また嬉しい。



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No.42 絵唐津向附(六客)
A set of 6 small deep bowls, E-karatsu
7.1-7.6cm / H9.8-10.2cm

生前、多くの美術品を蒐集されていた清明先生。
そのあらゆるコレクションの中には、古唐津のものもも多くあった。
それらに囲まれながら、作陶をしてきた先生の作品にはそんな古唐津の匂いが感じられる。
鉄絵の力強さ、造型の厳しさが、大変心地のよい作品となっている。



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No.44 桔梗唐津向附(六客)
A set of 6 bowls, Bell-flower shaped, Karatsu
12.6-14.2 / H7.0cm

厚みのある素地にざっくりと入れた切れ込みは楚々とした可憐さだけでは語れない、花本来が持つ生命感にも通じる力感を感じる。
口縁に鉄釉を施し、皮鯨に。
その鉄釉も所々流れ、動的な印象を強める。
見込みは深くたっぷりと。
清明先生の作品は、大きな岩石のような塊の作品も、小さく愛らしい動物を象った作品も、大きさ、種類に関わらず、どの様な相手でも大きく受け止める「強さ」を感じる。
本作品も清明先生独特の土の魅力を感じる器となっている。



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No.56 硝子蕪鉢
Bowl, Turnip shaped, Glass
26.1 / 21.3 / H13.6cm

No.47 白磁蕪鉢
Bowl, Turnip shaped, White porcelain
18.5 / H11.5cm

清明先生は蕪型の鉢を好んで作られていた。
信楽土でも多く、このタイプの作品を手がけられている。
陶器、磁器、硝子、その材を変えながら、その柔らかな丸味と、葉っぱの細やかな造りを表現されているのが大変面白い。



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No.65 信楽釘掛花入
Flower vase, Shigaraki

清明先生の仕事に一つに缶、釘、帽子、ステッキ、ダルマ、など具象的な作品がある。
本作品は、その中の「釘」を表したもの。
鉄の塊を削って作ったような、野太く荒々しい釘は、掛け花となっている。



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No.15 信楽花生
Flower vase, Shigaraki

たっぷりとした枕型の花生けには、野性味あふれるサンキライの蔓が良く似合う。







(葉)



 【気と明る寂び 辻清明展】
Exhibition of TSUJI Seimei
開催期間:2024年11月1日(金) ~ 2024年11月10日(日)
Exhibition : November 1 to November 10, 2024
休業日:11月7日(木)
Closed on November 7 Thu.


辻先生は仏教美術を愛好し趣味三昧であったお父様の元で幼少期にはすでに野々村仁清の色絵雌鶏香炉を手に入れました。直に触れた作品を自らの手でつくってみたいとの思いから轆轤も10歳前後で覚え、昭和16年14歳の時に辻陶器研究所を設立しました。中学生時代には高島屋の常設展示ケースを持つほど夙成の陶芸家でした。戦時中には岩手田野畑村で過ごしたことで生活の原点を大自然から教わり、野生の魚や虫と対話しつつ生活を送ったと言われています。
そして昭和30年には念願の登窯と工房を多摩郡連光寺に構えました。
哲学者、山口諭助氏が「暗寂び」に対立する概念として提唱された「明る寂び」という言葉や世界的陶磁研究家の小山冨士夫氏の六古窯という考え方を聞かされたことが間接的な契機になり、「信楽」こそは日本人独特の魂の原点という考えに辿り着き、信楽を主とした創作が始まりました。「気」は轆轤を通して作品に絶対の精神として宿ります。それに加えて信楽の作家が考えもつかなかった発想は造形だけでなく、窯詰めや窯焚きにも創意され作品に現れました。
 また辻先生は多種多様な方々と交流されました。幼少期に自作の意見を求めたこともある板谷波山、富本憲吉を始めとして、加藤唐九郎、加藤土師萌、小山冨士夫、濱田庄司、藤原建などの陶芸家や安部公房、池田満寿夫、遠藤周作、大岡信、岡本太郎、佐藤陽子、サムフランシス、多田美波、、流政之、平櫛田中、前田青邨、山口長男などの文学や芸術や音楽に携わった巨匠作家たち、そして清水公照、立花大亀、ドナルド・キーン、道場六三郎、ロックフェラーなどの誠に多彩な方々との出会いは辻先生の芸術をより深く、またお互いを高め合ったのに違いありません。
多種多様なのは交友関係だけではありませんでした。世界中のありとあらゆる美術分野の一大コレクションも辻先生を語るには欠かせません。2010年愛知県陶磁資料館では「陶芸家・辻清明の眼 ー作品とコレクションー」や2017年にサントリー美術館では世界の古代ガラスからオリエント・中国・ヨーロッパ、和ガラスの寄贈記念のコレクション展が開催されています。
 偉大な作家は度々私どものギャラリーにもお越しいただきました。目的は私どもが所蔵する古唐津茶碗をご覧になられることでした。記憶するだけでも3回、その度にモノと対峙する気迫を感じました。何回か良い自作の酒器などもお分けいただきました。
現在は病気で亡くなられてしまったTさんに赤坂の春秋という辻先生が作られた料理屋に連れっていただいたご縁もありました。栗の大木の手斧の荒々しさと土壁の空間の中で野生そのものいただく様な料理には圧巻のものを感じました。
2006年には青山の梅窓院で開催された「陶匠 辻晴明 華道家 假屋崎省吾展」では異色の二人の出会いに疑問を感じながらも花と器を楽しませていただいた様に思います。Tさんのご指導のおかげもあり、辻晴明先生の作品に魅せられながらコツコツと長い時間をかけて茶碗を中心に集めました。
辻清明先生の気宇壮大なお仕事の一端をご覧いただけましたら幸いでございます。


しぶや黒田陶苑




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No.67 風

No.55 硝子花生
Flower vase, Glass
14.0 / 13.5 / H40.9cm



陶歴
1927年 東京世田谷に生まれる。少年の頃より陶芸に興味を持ち、11歳のとき轆轤を学ぶ
1941年 姉・輝子と共に「辻陶器研究所」を設立、倒焔式石炭窯を築く
1951年 「新工人協会」を結成
1955年 多摩市連光寺の高台に辻陶器工房と登窯を築窯
1963年 五島美術館にて展覧会を開催
1964年 日本陶磁協会賞受章
1983年 日本陶磁協会金賞を受賞
1982年 『辻清明器蒐集』を出版
1986年 『辻清明作品集』を講談社より出版
1996年 『遊びをせんとや生れけむ』を平凡社より出版
2006年 華道家の假屋崎省吾とコラボレートした展示会「花炎」を開催する
2007年 「辻清明傘寿展」を開催
2008年 死去

History
1927 TSUJI Seimei was born in Setegaya, Tokyo.
He took an interest in making ceramics from an early age and learnt how to use a potter’s wheel at age 11.
1941 Established the Tsuji Ceramic Laboratory “Tsuji Touki Kenkyujo” with his elder sister, Teruko.
1951 Established “Shinkoujin Kyokai” the New Technology and Human Society organization.
1955 Built a studio and a “nobori gama” (rising kiln) at Renkoji temple in Tama City.
1963 Had an exhibition at Gotoh Museum.
1983 Won the Japan Ceramic Society prize.
2006 Collaborated with KARIYAZAKI Shogo, who is one of the foremost young flower artists in Japan, and held a special exhibition named“Ka-en” (Flowers and Flame).
2007 Held a “TSUJI Seimei Sotuju-ten”, a commemorating exhibition of nineteenth birthday.
2008 Died.




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 Rokeian 
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