【気と明る寂び 辻清明展】 二週目 ~ 作品紹介 ~
ふわふわと積もった落ち葉をかき分けると、既に水仙の芽が勢いよく背を伸ばしていました。
黄色や橙色の暖色の中に、瑞々しい緑の葉がまた美しく、朽ちゆく美しさと、誕生の美しさを同時に目にしたようで、目が離せなくなりました。
黄色や橙色の暖色の中に、瑞々しい緑の葉がまた美しく、朽ちゆく美しさと、誕生の美しさを同時に目にしたようで、目が離せなくなりました。
さて、先週の金曜日から開催しております【気と明る寂び 辻清明展】は、10日(日)まで引き続き展示しております。
会場では清明先生の制作風景のDVDを流しておりますので、先生のお人柄や、制作の工程なども感じながら作品をご覧戴くことが出来ます。
「私がやきものをつくっている姿を見て、ほんとうに幸せそうな顔をしているといわれますが、実際に幸せな境地なのです。」と仰っていたようです。
活き活きとした作品の数々からは、生きることを愉しみ、作陶を愉しみ、周りの人や動物たちを愛し、愛情深く作品を制作されていたことが感じられます。
懐深く受け止めてくれる作品の数々を、どうぞご高覧戴けましたら幸いでございます。
No.5 信楽土自然釉茶盌
Tea bowl, Natural ash glaze, Shigaraki
共箱 / with box signed by the artist
13.2 / 11.6 / H8.8cm
Tea bowl, Natural ash glaze, Shigaraki
共箱 / with box signed by the artist
13.2 / 11.6 / H8.8cm
No.7 信楽土自然釉茶盌
Tea bowl, Natural ash glaze, Shigaraki
共箱 / with box signed by the artist
11.8 / 11.4 / H8.5cm
所載:『作陶五十年記念 辻清明作品集』 講談社 1986年
轆轤に土を置いて茶碗を作る時は、頭で考えずに、ただ身体全体に力がみなぎり、手の中から茶碗が自然に形になって生まれてくるようになった。茶碗を作っているときが一番リラックスします。と先生は仰っていたようです。
千利休が最も愛したという半筒茶碗を多く作ったという清明先生。
今回ご紹介しますお茶碗も、少し背は低めですが、筒型となったシンプルな形。
貝の跡目を付けたものは、土の表面を綺麗に整え、跡目や釉流れが映えるように……また、灰の表情が豊かなものは、見込みにゆったりとした轆轤目を残し、愉し見所を作っている。
床の間の掛けものの前に置く花生を作るときは、拝むような気持で作ります。
すると、土の塊からかぐや姫が出てくる感じで、すーっとした形の竹筒のような花生が出てきます。とは先生のお言葉。
すると、土の塊からかぐや姫が出てくる感じで、すーっとした形の竹筒のような花生が出てきます。とは先生のお言葉。
本作品も、シンプルに引き上げられた作りですが、腰の辺りには竹節のような段を付け、また、縦中心に箆で押して窪みを作り、変化を付けている。
飴色の灰釉は、底部に行くほどにやや緑味を帯びて、それがまた竹を切ったような雰囲気となる。
飴色の灰釉は、底部に行くほどにやや緑味を帯びて、それがまた竹を切ったような雰囲気となる。
No.17 信楽花生
Flower vase, Shigaraki
共箱 / with box signed by the artist
11.2 / H14.6cm
Flower vase, Shigaraki
共箱 / with box signed by the artist
11.2 / H14.6cm
No.25 信楽フクロウ
Owl, Shigaraki
共箱 / with box signed by the artist
8.5 / 7.3 / H11.4cm
売約済 / Sold
私は轆轤が好きで、これだけは人には負けないほど繰り返してきました。盤の回転によってできてくるので、宇宙的なものを感じるのです。土の塊から新しい何かができ上がってくるという感じがしています。いい形は気合を込めて作ったときにできるとは限らず、轆轤と一体になって、回転のなかに自分が入った時にできるようです。手轆轤は優雅なリズムがあり、止まりそうな、たゆたう一瞬があります。そういう緩急のリズムがあるからこそ、いい形のものができるのだと思います。
会場に並ぶ本の中に、先生のこんな言葉を見つけました。
本作品も、手轆轤の回転により緩急が付いたと思われる美しい轆轤目が浮かび上がっている。
明るい緋色の土と、窯変し焦げたような灰がまた良い景色となる。
鳥の巣のような小窓から、お花を活けたら、自然に溶けみ、素敵に演出できそう。
明るい緋色の土と、窯変し焦げたような灰がまた良い景色となる。
鳥の巣のような小窓から、お花を活けたら、自然に溶けみ、素敵に演出できそう。
いたずら心がくすぐって、フクロウの作品を横に並べて1枚納めてみました。
No.29 信楽山羊角杯
Sake cup with the shape of goat head, Shigaraki
共箱 / with box signed by the artist
11.1 / 6.4 / H11.5cm
所載:『作陶五十年記念 辻清明作品集』講談社 1986年
Sake cup with the shape of goat head, Shigaraki
共箱 / with box signed by the artist
11.1 / 6.4 / H11.5cm
所載:『作陶五十年記念 辻清明作品集』講談社 1986年
私がよく作る馬上杯のひつじ、牛、馬、なまず、犬などの動物のやきものは轆轤引きした後手びねりで形を作ります。動物を作るときは 動物を愛する気持になって作る。または、自分が動物になった気持で作るというのが作陶の心得です。と先生は仰っています。
メェ~‼と大きな一声をあげていそうな、この山羊……
先生もメェ~‼と鳴きまねしながら愉しんで作られたのでしょうか。
何ともチャーミングな盃です。
先生もメェ~‼と鳴きまねしながら愉しんで作られたのでしょうか。
何ともチャーミングな盃です。
No.22 信楽香合 ガラン
Incense container, "Garan"
共箱 / with box signed by the artist
5.0 / 4.7 / H4.7cm
Incense container, "Garan"
共箱 / with box signed by the artist
5.0 / 4.7 / H4.7cm
No.53 灰釉石目板皿 (五客)
A set of 5 plates, Ash glazed, Ishime
共箱 / with box signed by the artist
7.1-6.7/H2.3-1.8cm
たたきづくりは、私の作品には多くあります。釘の形をした花入や、聖書、合子などなど。土の表面を丁寧に叩いて形を作ります。叩くのは手だったり、石だったり、木だったりいろいろです。やきものの従来の形だけを毎日見ていると行き詰まるので、まったく別の素材、別の発想でやきものにならないかを常に考えています。
こちらに紹介する四角い香合や板皿も先生による“たたき”の仕事の一つ。
香合は、デコボコと歪でありながら、ふっくらと焼きあがったスコーンのような柔らかく、温かな表情。
作品名から、石で叩いたと思われる板皿は、その凹凸に溶けた灰釉が溜まり、それぞれに面白い表情となっている。
香合は、デコボコと歪でありながら、ふっくらと焼きあがったスコーンのような柔らかく、温かな表情。
作品名から、石で叩いたと思われる板皿は、その凹凸に溶けた灰釉が溜まり、それぞれに面白い表情となっている。
No.51 信楽灰釉ギンナン鉢 (五客)
Deep bowl, Ash glazed, Shigaraki
共箱 / with box signed by the artist
11.3-12.2 / H7.3-7.5cm
No.46 慶州土木の葉皿(五客)
A set of 5 leaf shaped plates, Gyeongju
共箱 / with box signed by the artist
23.8-24.5 / 15.5-15.9 /H2.4-2.8cm
A set of 5 leaf shaped plates, Gyeongju
共箱 / with box signed by the artist
23.8-24.5 / 15.5-15.9 /H2.4-2.8cm
動物や自然を愛した先生。
その作品の数々には、植物や動物の形の作品が数多くある。
その作品の数々には、植物や動物の形の作品が数多くある。
ここに紹介しました作品も、そんな作品の中の一つ。
ギンナン鉢は一見静かな丸い鉢のように見えますが、上からよく見ると作品口の両サイドがほんの少し尖っていてギンナン型とうなずける。
ギンナン鉢は一見静かな丸い鉢のように見えますが、上からよく見ると作品口の両サイドがほんの少し尖っていてギンナン型とうなずける。
また、土そのものを大切にされた清明先生。
こちらの木の葉皿も、土の質感を残した大胆なタタラを木の葉型にし、灰釉を掛けた姿は自然そのもの。
皿という明確な用途がありながら、オブジェのようにさえ思わせる、大変美しい器となっている。お皿を返すと「ツ」のサインがある。
こちらの木の葉皿も、土の質感を残した大胆なタタラを木の葉型にし、灰釉を掛けた姿は自然そのもの。
皿という明確な用途がありながら、オブジェのようにさえ思わせる、大変美しい器となっている。お皿を返すと「ツ」のサインがある。
ちょうど今の季節にもピッタリの作品です。
No.67 風
Hanging scroll "Wind"
Hanging scroll "Wind"
早朝、庭に出て、書を書かれたという。
自邸のある東京の多摩地方は緑が多く、庭にも栗、桜、松、椿、朴の木などの花や木が生い茂っていた。その緑の精気の中、紙を広げて勢いよく書き上げた。
筆は、注連縄をほどいて縛ったもの。
ふつうの筆も使うことがあったが、正月飾りの大きな注連縄で作った筆が「はね」や「しんにゅう」がかすれたり、枝分かれする味が何ともいえず一番気に入っていた。
ふつうの筆も使うことがあったが、正月飾りの大きな注連縄で作った筆が「はね」や「しんにゅう」がかすれたり、枝分かれする味が何ともいえず一番気に入っていた。
展示会初日いらして下さった先生のお弟子さんが、「きっと左手で書かれたものですね……」と呟いた。
両手で何でもできたが、本当の利き手は左手だったそうだ。
きっと自然の風を感じ、その空気を深く吸い込んで、その風と呼吸のリズムに乗って筆を走らせた姿が目に浮かんでくる。
土の言うことを聞かないと亀裂が入ってよく失敗をします。土より人間の方が上だと思 っているうちは駄目です。土をねじ伏せても思うようにはならないのです。土が自分でなりたいものに手を貸すくらいの気持になると、いいものができます。土とその人の組み合わせは世界で一つしかないのです。それだけで充分に素晴らしいものができる。初心に戻って素直な気持で作ったものが一番なんです。
先生の言葉や作品は、嘘がなく、本当にすんなりと心の中に入ってきます。
きっと心洗われる時間になると思います。
お時間ありましたら、是非お立ち寄りくださいませ。
(葉)
【気と明る寂び 辻清明展】
Exhibition of TSUJI Seimei
開催期間:2024年11月1日(金) ~ 2024年11月10日(日)
Exhibition : November 1 to November 10, 2024
休業日:11月7日(木)
Closed on November 7 Thu.
Exhibition of TSUJI Seimei
開催期間:2024年11月1日(金) ~ 2024年11月10日(日)
Exhibition : November 1 to November 10, 2024
休業日:11月7日(木)
Closed on November 7 Thu.
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てのひらとゆびの 辻清明の器に寄せて 谷川俊太郎
あわされたふたつのてのひら
とじればいのり
ひらけばうつわ
とじればいのり
ひらけばうつわ
そのちいさなくぼみに
みずをくむ
おもいをもる
つちのやみにひそむ
すきとおるみず
ひとをまつかたち
すきとおるみず
ひとをまつかたち
それらをひかりへとさしだす
てのひらとゆびの
よろこび
てのひらとゆびの
よろこび
うつわのうつろを
みたすのはつちのめぐみ
みずのそしてひのめぐみ
みたすのはつちのめぐみ
みずのそしてひのめぐみ
はねるもの
においたつもの
こぼれるもの
においたつもの
こぼれるもの
ししてなおむつみあう
いのちといのち
そのかがやき
いのちといのち
そのかがやき
つちにうまれ
みずにきよめられ
ひにきたえられ
みずにきよめられ
ひにきたえられ
うつわは
あたらしいだいち
いのちをささげもつ
あたらしいだいち
いのちをささげもつ
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しぶや黒田陶苑の「公式LINE」が出来ました。
当苑では、渋谷・京橋の店舗にて、年間約40回の陶・漆・金工・硝子・書画など様々な展示会を企画開催しております。
今後の展示会の案内をお客様一律に発信する為、是非ご登録くださいませ。
展示会に関するお知らせや、YouTubeの配信のお知らせをさせて戴きます。
当苑では、渋谷・京橋の店舗にて、年間約40回の陶・漆・金工・硝子・書画など様々な展示会を企画開催しております。
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