陶房の風をきく~菊池克作陶展~

一気に冷え込んだと思えば昼間は温かな陽気を感じたりと、今年は夏だけでなく一年を通して気候の変動を感じます。
つい一週間程前に笠間へ訪れた際には日動美術館でやっと紅葉を見ることができました。
歩きがけ、たまたま菊祭りも目にすることができ、やはりたまには遠出して色んな物事に触れていきたいなと感じました。


さて、今年も菊池克先生の個展が始まります。
神仏習合文化のある国東で作陶される克先生の作品は唐津焼にとどまらず、周りのご環境などからも着想を得た作品たちが並びます。



まず今回ご出品いただいた中でもやはり目に付くのは大きさも様々な獏の水滴。

どんな経緯でお作りになり始めたかお聞きすると、白と黒の釉薬のコントラストを活かす器が作りたいと考えられたことがきっかけだそう。
最初に先生の頭に浮かんだのはマレーバクだったそうで、そこから伝説上の獣である獏を調べると、一説に獏は銅鉄を食べることで刀などの武器を作らせず平和をもたらすということが分かったそうです。
この水滴を作り始めたタイミングでお知りになったのも必然のように感じます。

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先生のInstagramより

先生はこじつけとも言えますが、、と仰りながら「昨今の諸国の戦禍を見て心が痛み、反戦・非暴力のメッセージとしてバク(獏)を沢山作ろうと思いました。」と想いをお話くださりました。

日本では悪い夢を食べてくれる空想上の生き物としても有名ですが、まさに戦争という悪夢を食べ、非核と平和への一歩を願う作品です。

また、獏をたくさんお作りになり、手が慣れてきて応用として白熊や月之輪熊をお作りなったということです。
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千手悲願
千手観音菩薩の菩薩手を1000手作る、とされ始められた千手悲願のプロジェクト。
今日までに200点程をお作りになっているそうです。

無論簡単なことではなく、先生も当初から時間が掛かるものとして覚悟されていたものの、やはり先は長いと感じられています。
それでもすでに作られた200点という数はすでに大きな数字。ここまでの変化や気付きについてお聞きすると以下のようにお答えいただきました。

「千手観音像があるお寺には積極的に参拝するようになりました。
おそらく多くの人がそうだと思いますが、仏像を見てもその仏像がどんな手をしていたかということは記憶にないでしょう。
作りながら疑問点を持ちながら像を見るといかに今までいかに何も見ていなかったかに気づきます。」

先生のようにはいかなくとも、私たちにもこれまで似たような経験をしたことがある人も多いかと思います。
例えよく見覚えのあるものでも、いざ思い起こして再現しようとすると自分の記憶力の曖昧さや細やかな点を捉えられていないことに気付きます。
どのようになっているか考えて初めて、そのものの作りに注目し認識できるように思います。

克先生もたくさんの仏像の手をご覧になりながら、願いを込めるその手を進化させておられるのでしょう。
一つ一つ表情の異なる祈りの込められたその手がどのようになっていくのか、先生の思いなども含めて今後も楽しみな作品です。

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韓国作陶旅
度々韓国でも作陶をされる克先生。
今回の韓国の旅は異なる点よりむしろ似ていることを再認識するものだったそうです。
それでもやはり圧倒されたのは、古窯群や複数の博物館でご覧になった発掘された陶磁器の数々のボリューム。
また、韓国伝統文化大学校の設備の充実ぶりや国立の博物館や美術館の無料開放、企業のメセナ活動などは新たなモノづくりやアーティストを輩出する土壌が国主体でできていることを感じられたそうです。

日本では文化の日や特定の市民が博物館や美術館を無料で入場できることはありますが、無料開放をしている国立の博物館等は、まだまだ少ないのが現状です。
そういったところの変化が特に若い世代でも身近になるかの分かれ道があるのかもしれません。

またこんな思い出話も、、
「韓国の料理は何でも好きなのですが、今回は納豆チゲ(チョングッチャン)との出会いがあり今でもすぐに食べたくなります。」

今回のご出品の中には韓国で作ったものも並びますので、作品を手に取りながらまた先生に直接お話を伺いたいところです。
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先生のInstagramより

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今後について
先生のInstagramを拝見していて気になることの一つに「聞香」を始められたということがありました。
ただ始められたばかりまだこれといったことは言えないそうですが、運よく質問をぶつけることができる知人がいらっしゃるということで、回を重ねて器制作に繋げていきたいと仰っていただきました。
新しく始められたことで先生の香炉でもまた新たなものが見られるかもしれないと思うととても楽しみに思います。

そして他にも先生が今後挑戦したいと考えられているのはお茶器だそうです。
「今回の韓国旅行で同行した作家の中に2人急須を作る技術を持つ人がいて、間近に制作工程を見ることができました。
窯業地でないところで一人で制作していると中々このような機会はありませんでした。
中国茶を嗜む知人もいるのでその人たちの要望にも応えられる茶器も挑戦したいです。」

毎年新たなものを見せてくださる克先生に今年は何を見せていただけるのかと思わせて下さりますが、益々この先が何通りにも広がる先生だと感じられます。

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菊池克先生は全日ご在廊予定でございます。
ぜひ足をお運びいただき、克先生の豊かな作陶の世界観をご高覧くださいませ。

(梨)

【菊池克 作陶展】
開催期間:2024年11月29日(金) ~ 2024年12月3日(火)
Exhibition of KIKUCHI Katsu
Exhibition : November 29 to December 3, 2024

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