陶房の風をきく~漆 太田修嗣展~

上野公園では特にイチョウが美しく色付き、上を見上げる人々を多く見かけましたが、冬の訪れも間近となってきました。
太田先生の個展も私たちにとって一年を締めくくる時期の季語のような存在です。

追加で届いた作品を開けて並べながら、なんだかほっとするような気持ちがしました。

さて、今年も先生にお伺いしたお話をお届けいたします。


薬研と捧盤
昨年から今回の個展で新たに挑戦されたという作品は四つ足の捧盤。

当苑社長の黒田との「ボクみたいな者(独立2年目のヒヨッ子)をよく拾ってくれましたヨネェ」という先生の想いと、
黒田の「薬研が面白かった」という昨年のその一言から挑戦されたそうです。

薬研(やげん)とは薬をひいて粉末化したりする際に使用する伝統的な器具で、車輪状の円盤に木の棒を差した薬研車と、舟形の容器(臼)から成り立っています。

今回の捧盤というのは横から見ると後者である臼を模した形をしています。

また、捧盤の"捧"という漢字には「ささげる」や「両手で持ち上げるようにしてかかえる」などの意味がありますが、まさに何かを捧げるような神聖な見目形へと昇華されています。

先生のご知人の大工さんから栗、楠、タモの厚板を分けてもらい制作されたとのことです。

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仕入れと出会い
太田先生といえば分業ではなく全てご自分でご制作をされています。

長年ご経験されていても難しいことや一筋縄ではいかないことはおありになるかお聞きすると、次のようにご回答いただきました。

「原木、丸太、厚板など、まずもって重いです。
材木の仕入れは大変ですが、運搬、移動はよほどの気合と算段をしないと大ケガにつながります。
それでもイイ木に出会うのは、刺激的で意欲を沸かせます。」

今回のご出品も、栗、楠、欅、鬼グルミ、楓、沢栗、山桜と様々な種類材木を使われています。

その素材を手に入れるのも容易ではない工程で、それぞれの作品に合ったものをお選びになっています。
だからこそ、一点一点手に取りたくなり、使いやすさが先生の作品の代名詞になっているのだと感じます。
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お道具について
太田先生がすべてご自分でご制作されるということは、使われるお道具もそれだけたくさんあります。

先生は木工ロクロで使われる刃物はご自分で鍛冶屋をされるそうです。
鉄の棒を焼いて、叩いて鍛え、成型し、焼き入れを行うのだとか。
ノミや台カンナ等制作の目的に合わせて研ぎ、時には成型します、と先生。

「漆刷毛もどれもが均一ではありません。まず使ってみて、腰のある、なしや、毛先の長さなど目的に合わせて調整します。」

因みに漆刷毛には一般的に「本通し」と呼ばれる、板の間に毛髪が鉛筆のように最後まで通っているもの、またそれが半分まで入っている「半通し」などがあります。
使っていくうちに毛先が摩耗したら、板の方を塗師刀で削り、固めてあった部分を熱湯につけ金槌でたたいて柔らかくするのだそうです。
手に持てる長さのうちは何度でも切り出して使えるそうで、太田先生もそうやってお使いになられているのでしょう。

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日々の器
先生はご自分の作品では、ご飯と汁のお椀、そしてお盆はほぼ毎日お使いになられているそうです。
ハレの日の器としてだけでなく、日常の漆器として先生ご自身がお使いになられています。

ご自身以外のものもお聞きしてみると
「佐藤和次さんの織部はお気に入りです。
また知人でもある中田正隆さんの砥部焼を愛用してます。」と教えてくださりました。

佐藤和次先生は魯山人を敬愛し、太田先生と同じくその使いやすさでも愛されている作家先生。
ご知人である中田正隆先生は李朝や初期伊万里の風合いを残しながら、砥部焼の伝統を基本にし、日常に馴染む絵付けをされています。

どこか太田先生とも共通点を感じるそれぞれの先生方についても、ぜひ知っておきたいところです。
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樹との共生
現在、日本の木材資源において欅・栗・桜などに代表される「広葉樹」は枯渇してきていると耳にすることはしばしば。

先生が漆塗りを始められた約40年前からも恐らく状況は変化しつつある中でも、先生が今の愛媛県砥部の地に引っ越した時にはもう、浦山に欅・栃を植林されたそうです。
そこから30数年、仕事に使うにはまだまだで生きいる内には間に合わないだろうと先生のご予想。
「ボクらの仕事は百年、二百年の樹を平気で使っています。今の時間の流れとは共存し難いかも知れません。」

最近たまたま電車の広告で「ウォーターポジティブ」という言葉を目にしました。
今日森に降った雨は20年かけて私たちが飲む天然水になる、そのため消費量よりも多くの水を供給することを目指そうという取り組みです。
水と同様、身近にそして長い付き合いとして向き合わなければいけない木材の資源問題。

「ウッドポジティブ」として共生のために何ができるか、私たち皆にとって大きな課題です。
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今年の個展も残すところ、太田修嗣先生と田中佐次郎先生です。
ぜひ温かな先生の作品と先生にお会いにお立寄りくださいませ。

(梨)


【漆 太田修嗣展】
開催期間:2024年12月6日(金) ~ 2024年12月10日(火)
Exhibition of OTA Shuji
Exhibition : December 6 to December 10, 2024


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